朝日杯将棋オープン戦の佐藤名人 vs 糸谷八段戦で、糸谷八段が後手番で一手損角換わり右玉を採用してくれた。
糸谷八段は現役棋士の中でも右玉の採用が多く、右玉党憧れの棋士。対振り飛車の「糸谷流右玉」が有名だが、角換わり右玉も得意にしている。
一方の佐藤名人は、言わずとしれたトップ棋士。糸谷八段と同じ88年生まれの同世代(学年は佐藤名人のほうが上)で、東西中堅トップ棋士対決となった。
というわけで、棋譜は以下からどうぞ。
2019-01-20 朝日杯将棋オープン戦佐藤天彦 名人 vs. 糸谷哲郎 八段 第12回朝日杯将棋オープン戦本戦
糸谷八段、得意の右玉へ
糸谷八段は一手損角換わりから右玉へ。得意戦法の1つで、公式戦でも何度か採用している。
対する佐藤名人は早繰り銀で対抗。
似た形は右玉党なら何度か経験があるかもしれない。ソフト評価値もほぼ互角だ。
佐藤名人3五歩からの仕掛け。
右玉まで組んでしまったら、同歩と素直に応じて、銀交換までさせてまったく問題ない。
糸谷八段も同歩で対応した。
先手の銀は3五歩まで進出したが、その後は自陣の整備に入る。
こちらもよくあるパターン。
糸谷八段、4四銀とぶつける
糸谷八段は4四銀と積極的に銀をぶつける。ここで2四歩が気になるところだが、3五銀、2三歩成、4二金と逃げれば先手やや有利。
同銀とする手もあるが、佐藤名人は4六銀と引いた。
右玉対策の遠見の角との攻防
少し進んで飛車が3筋で睨み合った状態。佐藤名人は2八角打と遠見の角を放つ。
右玉としては嫌な筋で警戒が必要だ。
後手の4四歩に対して、先手は6五歩の仕掛け。
糸谷八段は同歩で対応したが、ソフト的には同桂がよかったかもしれない。
同歩に対して5五銀が佐藤名人の継続手。評価値も動いて先手有利へ。
4五角打、同角、同歩、6四歩打、7二銀に再度の1八角打!
右玉としては苦しいところ。しかし、糸谷八段は決め手を与えないで粘っていく。
少し進んで、佐藤名人が玉頭へ銀を打ち込んだ局面。
ソフト的には評価値が1000点を超える先手優勢。
さらに進んだ局面。右玉の陣形は崩壊しているが広さがある。
糸谷八段は6七桂打を敢行。
8八玉に対して、8五飛。
歩の裏なので、歩合ができない。
9八玉と交わしたいところだが、9七銀打! があり、同桂は8九銀打で詰み、同玉は8九飛成で先手勝勢。
というわけで、8七金で対応する。
3つの選択肢のうち2つは地獄行き
対して糸谷八段は7九銀打。逃げ道は3通りあるが、2つは一気に後手勝勢になる。
正しい逃げ道はどこか? 考えてみてほしい。
7八玉は6八銀成、同銀、7九桂成がある(上変化図)。
同銀は6七銀打、同玉は8七飛成だ。
9七玉には9五歩の玉頭攻めが当然ながら厳しい(上変化図)。同歩とすると、同香から詰みあり(13手詰み)。
というわけで、9八玉が唯一の正解。短時間の将棋だが佐藤名人はさすがの選択だ。
佐藤名人、痛恨の悪手
後手が4四金で銀を補充し、同桂となったところで、5一金と我慢した局面。
ここで7八金なら優勢を維持できたが、佐藤名人に悪手が出てしまう。
飛車に当てる8六銀が自然に見えて、ソフトの判断では悪手。
3五飛と逃げ、6二金、同金、同歩成、同玉で再び悪手が。
桂馬を外す6七金。同歩成なら互角だが、3六飛と角を外す手がある。
先手陣周辺には駒はないが、かなり安全に。5五桂打とするが、次の手が好手。
飛車筋を止める3八歩成。これで後手優勢に。
糸谷八段、長手数の詰みを読み切る
佐藤名人は4三桂成としたが、後手陣に詰みがあった(21手詰み)。
簡単ではないが、考えてみてほしい。
初手は8八金打。これは当然の一手。同金、同銀成、同玉。
ここで8七銀打が好手(7九銀打、8七金打も一応詰み筋あり)。
7七玉は6七歩成、9七玉は7九角打から早く詰むので、同玉。
6九角打(7八銀でも可)。
7八銀の合駒に同玉、同角成、同玉で待望の6七歩成。
6六金打、7八玉、6七銀打、8八玉に8七金打!
同玉に7六金と寄って先手の佐藤名人は投了。
以下、9七玉なら8六金、8八玉、8七銀打、7九玉、6八銀打まで。
9八玉なら8七銀打、9七玉、8六金。
というわけで、佐藤名人が優勢を築いたが、糸谷八段が粘り強く指して逆転勝ちを収めた一局でした。
右玉NOWは今後も糸谷八段を応援します!
#なお、糸谷八段は次の対局で藤井七段に完敗……先手だったので右玉も出ず残念!