2019年1月25日に開催された王位戦予選で、佐藤名人が右玉を採用してくれた。
佐藤名人は、名人を3期連続で保持中のトップ棋士。貴族の愛称でもおなじみ。
対局相手は阿久津主税八段。A級では苦戦するものの、トップレベルの棋士であることは間違いない。
というわけで、棋譜は以下からどうぞ
2019年1月25日 王位戦予選 阿久津主税八段 vs 佐藤天彦名人
谷川-松尾戦の展開をなぞる
序盤は角換わり腰掛け銀模様。佐藤名人は7二金型としたが、のちに6二金にすることが多い。
(いったん7二金にする理由はちょっとわからず……。最近増えているらしいけど)
後手は玉を4二と5二で往復しつつ待機。対して先手は4五銀と繰り出した。
ここがポイントで、2018年B級1組順位戦谷川-松尾戦でも現れた局面。
2018-12-13 順位戦谷川浩司 九段 vs. 松尾 歩 八段 第77期順位戦B級1組10回戦
局後の感想でも、ここから後手に思わしい手がなかったとのこと。
ただ、ソフトの評価値は互角。ソフト同士で10秒対局を20局させたところ、先手の10勝8敗2分だったので、後手がむちゃくちゃ悪いと言うほどでない。ソフトの戦いを見ると、7五歩や6五歩など右辺(後手視点)で戦いを起こすのが良さそうだ。
右玉つぶしの5六角を放つ
5二玉に対して、先手は5六角打を設置。3四銀と繰り出すのが狙いだが、これは甘受するしかなさそう。また、7四の桂頭もケアする必要がある。5六角は右玉にとって強敵だ。
ただ、この時点でもソフト評価値は互角だ。ソフトの読みは7二金! から6二玉にして戦場から離れる構想で、これで互角と見ている。
本譜は6一玉、2四歩、同歩、3四銀、同銀、同角、7二玉で右玉へ。
まだ谷川-松尾戦を踏襲している。
5六角に対して5五銀打。5六角は好位置すぎるので、銀で働きかけるしかない。
前例を離れ、先手に疑問手が
3八角と引いた手に対して、4六銀。これで前例の谷川-松尾戦を離れた(松尾八段は8四角打だった)。
ただ、4六銀はソフト的には悪手で、5四歩や4四角打のほうが勝っていそう。
少し進んで先手が4五桂と跳ねた局面。これがソフト的に緩手で、評価値は後手に揺れ動く。次に7五歩だったら、右玉が有利に戦えたかもしれない。
佐藤名人は4四歩と桂取りをかけたが、一瞬角が不自由になってしまうことがよくなかった。
さらに進んだ局面。結局、桂馬を取りきったのは10手以上先。しかも、6五歩から駒損を回復されてしまうため、先手有利な状態になってしまった。玉頭を厚くされ、右玉の負けパターンに入ってしまったといってもよいだろう。
右玉苦しいながら佐藤名人の驚異的な追い込み
先手は堅く、桂頭も狙われて苦しい局面。ここから手を作っていくのはかなり難しいと思いながら観戦していたが、佐藤名人の手作りはさすが。
持駒をすべて使って怪しい局面を作り上げていく。
先手優勢な局面だが、少し間違えると一気に逆転するというレベルには持っていっているだろう。
先手が6九歩打としっかり受けた手に対して8六桂跳ね。
同銀に9五角! が勝負手。
同香なら8六飛があって差が縮まる。阿久津八段は冷静に8七歩打。
同角、同歩に9四香も勝負手。同香なら8八歩打としてから8六飛と走る手がある。
そこで阿久津八段は8七金。
9九香成に7八玉(同玉は7八銀打が厳しい)、6四香打。先手もかなり怖い格好だ。
阿久津八段、A級の力を見せる寄せ
局面は少し進み、5六角打として佐藤名人がさすがの力で先手玉を追い込んだところ。
しかし、後手玉には詰み(最短25手詰み)が発生。阿久津八段は逃さなかった。
8三銀不成から寄せに入る。同銀、8四桂打、6一玉。
7二金打、同飛、同桂成、同玉、8三角成、同角、8二飛打。
ここで佐藤名人は投了。
以下、同玉とするのが一番粘れるが10手で詰む。
というわけで、中盤から右玉が苦しく負けてしまったが佐藤名人の追い込みは見事だった。
また、途中までの構想は右玉が必ずしも悪いわけではなく、今後も公式戦で登場してもおかしくないだろう。
右玉NOWは今後も佐藤名人を応援します!