2019年の朝日杯オープンといえば、藤井七段の優勝が話題の中心だが、右玉NOW的には準決勝で千田六段が渡辺棋王に対して一風変わった右玉を採用したことを取り上げたい。
千田六段はコンピュータ将棋に精通した若手強豪棋士。Twitterの@chidanzaでも有名。
対する渡辺明棋王は言わずとしれたトップ棋士。ここ最近はとくに絶好調で、この対局まで19戦18勝を記録している。
というわけで、棋譜は以下からどうぞ
2019-02-16 朝日杯将棋オープン戦渡辺 明 棋王 vs. 千田翔太 六段 第12回朝日杯将棋オープン戦
千田六段、8三金型の右玉を採用する
後手は雁木模様かと思われたが7二金!
さらに進んで、6一玉! 見たことがない構えとなる。
先手は右玉もありそうだったが、6八玉。
対する後手は8三金! としてから右玉へ。
正直、右玉と呼んでもよいのかわからないが、右玉ということにしておこう。
右玉、1筋から仕掛ける
先手の飛車が4筋に回ったところで、右玉側は1五歩と仕掛け。
このままじっとしていると4筋から仕掛けられてしまうので、仕方がないところだろうか。
同歩、3五歩、同歩、1五香、同香に3六打が右玉の狙い。
香車を犠牲に桂取りかつ、と金作りを狙う。
この時点でのソフト評価値は先手に+500を超えるので、厳密にはやや無理な仕掛けもしれないが、先手としても嫌なところだ。
1八飛に3七歩成。
後手は、と金を活用しなければならないので3六と金。
対して4五歩、同桂、同銀。
この瞬間がやや形勢が五分に近づいた。千田六段は、4七と金と捨てて、同金、5五桂打という技を使ったが、8六歩と入れてから同歩と素直に銀を取ったほうがよかったかもしれない。
右玉、迫力のある攻めで迫る
少し進んだ局面。1二龍と入られて右玉が苦しそうだが、8六歩の突き出しから迫力のある攻めを披露する。
同歩、6五桂、6六銀で8八歩打。
これが玉を危険地帯に呼ぶ手筋。同金は壁となるので、同玉。
後手は6九角打。銀と守備の要の金を狙う手で厳しく見えるが、渡辺棋王の対応も冷静。
しっかりと5八金打で受ける。ソフトも最善手として推奨する手だ。
後手は8六角と出て、8七歩打、5八角成、同銀、5九馬。
先手は6七銀と冷静に逃げ、後手は6八金打と絡む。
6五銀と桂馬を外した手に7三金で飛車筋を通す。
しかし、先手の8六桂打が好手。飛車筋を止めつつ、7筋も狙っている。
先手、確実に寄せる
少し進み、後手が6七金と銀を取った局面。
同金ととっても先手が勝ちそうだたが渡辺棋王は踏み込む。
5四桂打!
これが先手の決め手。7二玉と逃げれば詰まないが、そこで6七金と戻されると手がない。
仕方がなく同銀と取るが……。
この局面は後手玉に詰みがある。
3二龍、5二桂打まではほぼ必然なので、以下図から考えてみてほしい。
17手詰みがある。先手の立場で考えてみてほしい。
5三銀打!
この手以外は詰まないので注意。
同玉と応じるが……。次の手は?
4五桂打! これが逃げ道封鎖の手筋。
同銀、同玉、5二龍と考えてしまいそうだが、これは詰まない。
4五桂に対して同歩とさせて
このタイミングで5四銀。これで4五からの逃げ道はない。
同玉に対して、4三角打!
5二龍と入っても詰むがこちらのほうがはやい。
以下、6四玉、6五銀打、5三玉、5二龍、4四玉、3四角成までなどで詰み。
というわけで、千田六段はここで投了。
しかし、負けてはしまったが興味深い構想だった。
千田六段曰く、陣形が向かなかったそうだが、8三金型が悪いわけではなさそうなので、また登場の機会はあるかもしれない。
渡辺棋王の感想はこちら
朝日杯準決勝、決勝。
準決勝は千田六段戦。優勢ながら攻められて大変でしたが図の▲86桂ではっきりしました。以下は攻め合いでの1手勝ちで決勝へ。
というわけで、右玉NOWは千田六段を応援します!
下で紹介している不屈の棋士にも千田六段は登場しているのでチェック!