今から2年前(2019年現在)。
2017年の名人戦は、佐藤天彦名人(当時)に稲葉陽八段が挑戦する番勝負となった。
佐藤名人は前年に羽生名人(現九段)から名人を奪取し、これが初の防衛戦。
稲葉陽八段は、A級順位戦で8勝1敗という堂々とした成績を残し、初の名人挑戦となった。
この番勝負では右玉が2回登場し、しかも両方とも右玉が勝つという右玉シリーズになっている。
最高峰の舞台での右玉を振り返ってみたい。
最初の右玉は1勝1敗で迎えた第3局。後手の稲葉陽八段が変則的ながら右玉に構える。
棋譜は以下からどうぞ
2017-05-01 名人戦佐藤天彦 名人 vs. 稲葉 陽 八段 第75期名人戦七番勝負第3局
#本筋とは関係ないがコメントがちょっと荒れているのも見どころ(笑)
右桂を交換してからの右玉
先手は早繰り銀で、5六角を設置しており、7四の桂頭と2筋を狙って好位置。
ただ、先手玉は薄くソフトの評価値はやや後手寄りのようだ。
後手は7五歩。驚きの手だが、桂頭はお互いに弱点のようだ。
その後桂交換が入り、問題(?)の手・4六銀。
この手について将棋DB2のコメントが荒れている(笑)
というか、「ここで銀を引くのは失敗派」と「自然な好手派」の2人が激論しているだけではあるが。
個人的には4六銀はソフトのダントツの候補手でもあるし、早繰り銀で進出した銀を引く手はよくあるので失敗とは思わない。形勢も4六銀で互角だ。
ちなみに、4六銀の次のソフト候補手は、驚くべきことに5九金! これはまったく見えない。
3九角打があるからだ。
ソフトの読みは、5九金に3九角とされたら5八飛。7四歩と叩かれて馬は作られるが、まだ互角(わずかに後手より)とのこと。
その後、7四歩で銀を追い返してから6二玉。
桂馬のない右玉が完成した。
歩の突き捨てから4筋を制圧する
先手は4五角と出て、間接的に飛車を狙う。が、この手はやや緩手だったようだ。
ここからの後手の手順は面白い。
4五歩、同角と取らせて4四銀、1八角、4五歩打。
これで4筋を制圧する。
パっと見、同銀とされて意味がないように見えるが、同銀、同角には、5七桂打が痛い。
変化図
薄い先手としては厳しく後手有利となる。
というわけで、銀取りに構わず5六桂打が好手。もちろん後手も予想している手で、4三金、4四桂、4四金と進んだ。
順調にリードを広げる後手
4四金に対して、5七銀と引いた先手。
ここで後手の手は広い。稲葉八段が指したのはいかにも指しにくそうな手。
5四歩!
玉の小ビンの歩を自ら開けていく。が、先手としても同歩とは取りにくそう。
2四歩からの攻めも見えているが……。
この手はソフトの第一候補手でもある。
先手は堂々と同歩、後手は5五角打の飛香取りが決まった。
先手としては、5四歩が大きいということだろうか。
ソフトの評価値は後手有利。
先手は5三銀の打ち込みで精算したあと、4六歩と手筋の受け。
ここで同歩は角筋が怖いところだが、一番良かったかもしれない。
また、ここで9九角成もあったようだ。
稲葉八段の選択は5六歩打。これは少し差が縮まったか。
稲葉八段の受けが光る
少し進んで終盤の入り口。
後手は右玉にありがちなスカスカだけど、広いという局面。
ここでしっかり受けないと即負けになってしまうが、稲葉八段は正確に受け切る。
5七歩打から同歩、5六歩打、同飛、5五歩打と叩いていって先手を取り、7二角打。
厳しい一着だが……
6二桂! がしっかりとした受け。
8一角成と飛車は取られるが、5六歩で後手も飛車を取り返す。
5四桂と銀を取られた手に対して、5七歩成と攻め合いを選ぶ。
後手有利だが、怖すぎる局面だ。
5一飛打、4四玉、6ニ桂成。先手の飛車は受けにも利いている。
後手は5九飛打の王手。この合駒請求が厳しい。
8八玉は、8九金打から詰み。
6九銀打が確実だが、攻め味がなくなりそう。
仕方なく6九桂打だが……。
6八金打、同金、同とに5一飛成で飛車を抜く。
同成桂に5九銀打まで、先手の投了となった。以下は即詰み。
7七玉と逃げた場合の詰み筋はこちら。
というわけで、2017年の名人戦第3局の右玉の紹介でした。
次局の第4局では、なんと佐藤名人が右玉に! こちらはオーソドックスな角換わり右玉で右玉党にも参考になる一局。近い内に紹介させていただきます。