大山康晴と升田幸三。
昭和を代表する大棋士の2人だが、実は右玉も指している。
1956年(昭和31年)の王将戦だ。
右玉を採用したのは後手の大山康晴名人(当時)。言わずとしれた昭和の大名人で、公式タイトル80期、通算1433勝という恐るべき記録を持っている。対局当時は33歳で、名人位を持っているものの、全盛期はこの数年後にやってくる。今回の王将戦は挑戦者。
対するのは、升田幸三王将(当時)。38歳。
独創的な指し手で「升田幸三賞」にその名を残す超人気棋士。1956年はまさに全盛期で、王将に加え、当時はタイトルであった「九段」を保持。翌年には大山から名人位を奪取し、史上初の三冠独占となる。
というわけで、棋譜は以下からどうぞ
1956-12-12 王将戦升田幸三 vs. 大山康晴 王将戦
昭和の大名人、右玉を選択
後手の大山名人は飛車先を受けずに右玉へ。
先手の升田二冠はすかさず歩交換へ。
角の逃げ場所がすごい。さすがは升田二冠という感じ。
駒組みは進んで後手は7二玉。
この局面は先手の完全な作戦勝ち。右玉としては選びたくない局面だ。
手待ちの後手に対して、先手仕掛ける
局面は後手が一度4ニに寄った金を元に戻したところ。明らかな手待ち。ここで先手が仕掛ける。
6五歩!
桂跳ねはあるが、角道も通る。
同桂、6八銀、3三角、6六歩と進む。これで桂馬は助からない。
右玉を指しているとたまに直面する局面だが、大山名人でも食らってしまうとは……。ソフト評価値は先手優勢。
先手、強引に端攻め
先手は、9五歩、同歩、6五歩、同歩のあと、9五香! と香捨ての強襲。
同香に、9三角成(上図)。強引に端から攻める。
次の受けは基本だが、覚えておきたい。
基本だが、大事な一手。ソフト評価値はわずかに先手有利の互角に戻っており、後手もやる気が出てきたかもしれない。
升田二冠の善悪不明の鬼手
少し進んだ局面。再び評価は先手優勢に。升田二冠の次の一手はなかなか読みにくいと思う。
3九香!
ものすごいところに目が行く。さすが升田二冠。
手の意味はちょっとわからなかったが、歩切れの解消を狙ったのだろうか?
全盛期升田二冠が押し切る!
局面は進み、上図に。後手玉には詰みがある。次の一手を見て、後手の大山名人は投了した。
5ニ飛まで。仮に詰みに失敗しても、先手玉は詰めろではないので、投了もやむなしだろう。
詰み筋はこんな感じ。
というわけで、レジェンド同士の一局は先手の升田二冠が勝利し、右玉の大山名人は負けてしまった。ここで大山名人が勝っていれば、右玉ブームが1950年代に起きていたかもしれないので残念である。勝っていてもたぶん、起きていないが。
というわけで、将棋の歴史の中に登場した右玉の紹介でした。