今回は右玉本レビューのシリーズとして、伝説の右玉本「右玉伝説」を取り上げたい。
右玉伝説は、1991年に発行された「秘宝巻之四 右玉伝説」を加筆し、2003年に文庫版として販売したもの。
長らく品切れ状態が続いて一時はプレミア化していたが、2016年に「雁木伝説」とセットとなった「雁木・右玉伝説」として再販された。
現在ではKindle版もあるので、簡単に入手ができる。
ミギーも右玉伝説については思い出が深く、右玉の師匠であるZ氏から譲ってもらって読み込んだ記憶がある。
この本のポイントを説明すると、
基本的には角交換のない右玉を扱う後手番だが、紙面では前後逆になっており読みやすい最新のソフトだとやや悪い変化も多いので注意現代右玉の主流、対角交換腰掛け銀はほとんど触れていない著者が不明(古作登氏?)という感じ。
なお、ミギーは「雁木・右玉伝説」を持っていないため、「右玉伝説」でのレビューとなることをご了承いただきたい。
第1章 風車右玉
はりめぐらせたワナ
第1章は6七銀型の風車右玉を紹介。後手の駒組みは実戦ではあまり見ない形かもしれない。前半の解説は相手からの角換わりを誘うので角換わり風車右玉、後半は角交換しない風車右玉となる。
地下鉄飛車の出現
飛先の歩の意味
8五桂をめぐる攻防
角換わり風車右玉は8五桂と桂を捨てる強手からの8筋逆襲を紹介。ソフトで検討した限りでは成立していそう。ただ、相手が桂をまったく動かさないでこの局面になることも少ないだろう。
2度めの強手
8四歩の変化
自陣を整備
一発長打の角
8筋を突破
同じ局面にはならない
勢いをつけて
5二金型の欠点を衝く
一歩も引けない局面
形に応じて攻め方を変える
8三歩型で受ける
間合いを計る▲9六歩
△5四銀を誘う
角金交換の代償は
▲7四飛を実現
銀速効型の対策
棒銀はうまくいかない
攻めの銀との交換は損
棒銀への対抗。6五歩から反撃する筋を紹介している。
4五桂の威力
飛車は横に使う
即戦即決
飛車を6筋に振って銀をぶつける変化を解説するが、この局面はソフト的にはやや後手よりの互角となっている。あまりおすすめしたい変化ではない。
自陣角に好手あり
7七桂の効果
▲2五歩と突く場合
角を新たに活用
▲5七角で攻めを誘う
続いては8筋をあえて突破させて反撃させる方法を紹介。右玉らしいユニークな作戦だが、相手の最善手である7二飛に触れていないのはちょっと問題かもしれない。
焦土戦術の序章
4五歩の位が大きい
焦土戦術が成功
風車を目標に
最後は持久戦の紹介。
△8六歩は悪手
銀冠に組ませるな
しばらくは辛抱
攻めを逆用してさばく
敵の攻めを呼び込んで、1筋から逆襲する流れを解説している。
右と見せて左
端を攻めれば勝てる
第2章 矢倉右玉
“石田流”矢倉右玉
矢倉右玉は4八金型
積極的な7五歩
第2章は7七銀型の矢倉右玉を解説。
かなり充実した内容となっており、こちらも相手は矢倉を想定している。
8六歩はうまくいかない
△7二飛には▲6八金
銀多伝は理想形
優勢なときは駒が急所へ
矢倉右玉の理想形。銀多伝の形。ソフトの評価もプラスでこの局面を目指したい。
駒をすべて使って勝つ
6四歩型への対応策
▲5七銀の効用
右玉の鉄則
3一玉と寄らせない
あとは入玉を
4五が争点
5七銀型に振り替える形も紹介している。
4五桂の与えるプレッシャー
一歩持ち攻めの含みを
▲5三歩の利かしが大きい
勢いを重視
逆サイドを突く
4五桂が急所の駒
攻め始めたら止まらない
ヒットアンドアウェーの作戦
悪形を誘う
大きい▲9六歩
含みの広い▲7七桂
満を持しての▲8九飛
8筋突破で右玉優勢
今までの攻めではダメ
角の転換が好着想
位でにらみ倒す
持久戦なら2八玉型
根元の桂を牽制
▲2五歩で決める
第3章 右玉七変化
3章では雁木右玉をはじめ、18局面について解説をしている。1章2章のような長い変化ではないのでちょっとした時間でも読みやすく、右玉感覚も養えるのではないだろうか? いくつか局面を紹介し、残りは見出しにとどめておく。地下鉄飛車への対策もあり。
雁木右玉のさばき
雁木右玉 vs 片矢倉。ソフト評価的には右玉やや作戦負け。
なんでも2九飛
雁木右玉 vs 早繰り銀。2九飛の重要度を力説。
右玉らしい指し回し
右玉作戦負けっぽい局面。実際、ソフト評価値も-400に近い。
紹介されている変化もあまり良くはならない。
硬さと広さの勝負
雁木右玉に対して、相手が角交換をしない場合。
振り飛車にヘンシ~ン
7筋交換への反発
薄くても広い右玉
居玉相手には積極的に
▲9七角の威力
左金のさばきがポイント
堅くても敵玉近くで戦え
桂頭狙いのカウンター
地下鉄飛車を受けに生かせ
8筋逆襲の大構想
動けばスキが生じる
1筋は死守せよ
発想の転換
作戦負なら右玉にせよ
第4章 右玉実戦編
3章と同様、特定局面の変化を紹介している。こちらは実戦に現れた局面とのこと。
急攻に対するカウンター
1章でも似た形があるが斜め棒銀対策。覚えて損はない手筋だ。
王のキャスリング(遷都)
右玉が戦場から早めに遠ざかることをチェスの「キャスリング」をイメージして紹介。実際、右玉ではよくあるので覚えておきたい感覚だ。
ちなみにこの局面、古い右玉伝説では誤記がある。お分かりいただけただろうか?
香が5個! 後手玉がいない!
最新の「棋界に伝わる二つの秘法 雁木・右玉伝説」版で直っているのか知っている人は教えてください。
秘術「雲隠れの術」
8筋逆襲その1
8筋逆襲その2
8筋逆襲その3
銀多伝型矢倉右玉その1
銀多伝型矢倉右玉その2
特別講義
特別講義として、各章の最後に右玉の実戦例を紹介している。オマケ的なページ。
ここで少しだけ対腰掛け銀に触れている。
まとめ・買うべきか否か
かなり古い本だけに、現代的な右玉の変化はほとんどない。そのため、同じ局面と遭遇するケースは少ないだろう。
それでも、右玉的な感覚を養える手順は多く、右玉党としてはチェックして損はない本といえる。全体的に読みやすいが、とくに3章・4章については特定局面ごとの短い手順なのでわかりやすい。
これから右玉をはじめるなら青嶋未来七段著の「現代右玉のすべて」をおすすめするが、古い右玉にも興味があり、角交換しない右玉も指すのであれば、買って損はないだろう。(「雁木伝説」も付属しているし。最新の雁木とは違うけど。)