2019年8月23日に行われたA級順位戦、稲葉陽八段 vs 羽生善治九段戦が相右玉となったので紹介したい。
A級順位戦といえば棋界最高峰のリーグ。そのような場で相右玉が出現するとは感慨深い。
本局は羽生九段の一手損角換わり右玉から始まり、稲葉八段は7二金型右玉を選択。
羽生九段は後手番ながら積極的な攻めを敢行し、稲葉八段が受ける展開となった。
棋譜は以下からどうぞ
2019-08-24 A級順位戦 稲葉陽八段 vs 羽生善治九段
一手損角換わりから相右玉へ
後手の羽生九段、一手損角換わりを選択。最近の羽生九段がよく採用する戦法だ。
羽生九段、右玉へ。羽生九段は右玉の採用が多い棋士で、右玉の優秀さを知り尽くしているのだろう。
対する稲葉八段も右玉!
まさかのA級の舞台での相右玉となった。
先手は1筋の歩を突き越していることが主張となりそう。
後手、6九角打を決断する
先手は3八金型の右玉にしたところで、後手の羽生九段は△6九角打を敢行。
この筋は右玉側としては常に警戒しなければならないが、7八金にもヒモがついているので思い切った手だ。
ソフト的にもこの手は最善手。
先手の応手は▲7七角打!
▲2九飛が自然に見えるが、△7八角成、▲同銀、△8八金打が気になったのだろうか?
後手の継続手は△3五歩。
▲同歩は△3六歩打があるので、▲2九飛。
ここで△4七角成と勝負する。
▲同金に△3六歩、▲同金。
角銀交換だが、先手の陣形は大きく乱れた。
ソフト評価値は互角。後手としては十分満足に行く結果だろう。
後手の攻め vs 先手の受け
後手は先手の金に狙いをつけて、△3五歩、▲同金、△4四銀。
▲同金、△同歩に、先手はしっかりと▲3六歩打。
△4五歩打、▲同歩に△4六銀打。
ギリギリの攻めだが迫力はある。
▲5六銀、△3五歩打、▲同歩、△3六金打。
▲5八玉、△3七銀不成、▲6八玉と戦場から遁走。
右玉にとってはよく遭遇する指し方だ。
ただし、この局面は後手有利。早逃げよりも▲3八銀打としっかり受けたほうがよかったかもしれない。
後手、細い攻めを繋げてリードを拡大
△4六銀成に、▲4九飛。
△3三桂と力を貯める手もありそうだったが、△5六成銀とばっさり切って、▲同歩、△8四桂打。
いわゆる控えの桂だ。
▲6七銀打でしっかり受けたところで△3八銀打。
後手はこれで持駒なし。かなり細い攻めとなった。
▲5九飛と飛車を逃げて、△4七銀成。
先手はここで▲7九玉とまたしても早逃げ。
△4六金に▲6八銀打で固めて、△3三桂。
やはりこの桂馬を使わないと後手は苦しい。
▲6五歩、△4五桂、▲5五角、△6五桂。
角が好位置に飛び出たが、後手の駒も戦力が集中。
ソフト評価は後手有利に傾いてきた。
▲7七桂、△5七桂成、▲6九歩打。
ソフトによるとこの手が緩手とのこと。変えて▲8五桂のほうがよかったようだ。
結果的に敗着に近いかもしれない。
△6七成桂で銀を外し、▲同銀、△5七桂成、▲8五桂。
この桂跳ねが右玉の弱点である7三に利いており、後手も怖いところ。
羽生九段は受けずに△6七成桂、▲同金、△8六歩打。
いよいよ後手の攻めが厳しくなってきた。
△5七金、▲7七金、△7五歩と厳しくせまる。
ここでさらに▲9八玉の早逃げ。さすがは稲葉八段と思える好手だが、局面は後手勝勢だ。
後手、攻め切り快勝!
△7六歩に▲8六金と逃げるが、△7七歩成、▲同角に、△6七金と寄る。
▲7三角打で王手を決めてから▲1一角成、△同飛、▲8九桂打。
▲8四角成としたいところだが、先手玉は△8九角打以下の詰めろ。
▲8九桂打は仕方ながない。
後手は△8八歩打。ゆっくりしているようだが、これで間に合うようだ。
▲6八歩、△8九歩成、▲6七歩で金を取るが、△8八銀打。
▲8九飛とするが、これは受けになっていなかった。
詰みがある。
△同銀不成、▲同玉、△8八歩打で先手投了。
以下、▲同玉は▲5八飛打、△7八金打、▲7六桂打、△同金、▲同桂、△7七玉、▲同玉、△8八金打、▲7七玉、△6八角打、▲6六玉、△6五金打までが詰みの一例。
▲7九玉は△8九飛打、▲7八玉、△6九銀打、▲7七玉、△7九飛成、▲6六玉、△7四桂打、▲5五玉、△5四銀、▲4四玉、4三金までの詰み。
というわけで、A級順位戦の相右玉は後手の羽生九段の勝利となった。
後手番ながら攻める右玉は右玉党にとって大いに参考になるはずだ。
右玉NOWは今後も羽生九段と稲葉八段を応援します!