羽生善治九段のここ最近の得意戦法といえば、一手損角換わり7二金型右玉。
そして、2019年8月29日の王将戦二次予選対近藤誠也六段戦。千日手指し直しとなった対局で、再び7二金型右玉を採用してくれた。
この対局は一手損角換わりから、手損もいとわず7二金型右玉に変化し、難解な中終盤に突入していった。
序盤は若手強豪の近藤誠也六段がうまく対応するも、難解な中終盤を制した羽生九段の勝利となる。
棋譜は以下からどうぞ
2019-08-29 王将戦二次予選 近藤誠也六段 vs 羽生善治九段
羽生九段、一手損角換わり右玉へ
千日手指し直し局。羽生九段は得意の一手損角換わりに。
後手は5二に上がった金を6二へ。
先手も右玉警戒(恐らく)で▲7七銀を決めない。
手損をしつつ△7二金まで移動させ、ついに右玉へ。
現在の羽生九段がもっとも得意な形といっても過言ではないだろう。
後手右玉、5四角を決断する
右玉に対し、先手は▲7七桂。
右玉と相性の良い、菊水矢倉もしくは銀冠を狙った手だ。
右玉は△5四角打!
対右玉でよく出てくる手だが、右玉側が放った。
両方の桂頭を狙っており、両方受けるとすれば▲5八角打しかない。
先手は▲5八角打を決断する。ソフトも推奨している手だ。
右玉はセカステ右玉風の△5四銀の腰掛け銀にしたあと、△8五歩から仕掛け。▲同歩、△同桂、▲同桂、△同飛の桂交換となった。
この時点でのソフト評価値は先手有利。右玉やや作戦負けかもしれない。
局面は3筋から激しく動く
局面は少し進み、後手の△5五桂打に先手が▲3八角と引き、△3五歩と桂頭を狙ったところ。
▲2七角と受けて、△3六歩、▲同角に△3四銀。
先手は飛車を3筋に転換するが、後手は構わず△3五銀!
先手の▲3三歩打も手抜いて△3六銀!
▲3二歩成、△2八角打。一気に激しい展開となった。
後手、驚愕の8四歩打
先手が▲8八玉と銀冠に入城した局面。次の後手の一手は驚くべき手だった。
△8四歩打!
この歩は右玉党であってもなかなか打てない。▲8五桂打や飛車が動いたときの▲8四桂打を警戒した一手だろう。
ソフトは上位候補に上げており、さすがは羽生九段というところだろう。
先手は角2枚の攻め
馬と飛車の交換から後手が龍を作った局面。
先手の攻めは▲6一角打から。
△7一金に▲5一角打。角2枚の攻めでかなりの迫力。
と金もあり、右玉が受けるのは大変だ。
△6二桂打、▲同と、△同金、▲5二角成に△7二玉として角筋を避ける。
この一連のやり取りは後手が得をしたといってよいだろう。
ソフトの意外な読み筋
馬あたりの先手は▲4一馬。
ここでソフトは興味深い手を指し示す。
変化図
△7七香打!
ソフトはこの香打ちが成立し、後手有利だという。
▲同金は△5一飛と角を取ってからの△6九角打が厳しくはっきり後手優勢。
▲同玉は△9九龍。
必ずしも本譜よりも良いとは言えないが、このような筋もあったようだ。
本譜は△4七銀不成。こちらもソフトも上位の候補手にあげている。
先手、桂馬を使った反撃
少し進んだ局面。金当たりだが、もはや金を逃げている時代ではない。
先手は▲7五桂打!
空間を作る桂打ち。
△同歩に▲7四桂打!
桂を使った激しい攻めだ。
右玉は△5一飛。これは盤上この一手で、この手以外は不利になる。
後手はチャンスを逃したかもしれない
少し進み、先手は▲6九桂と受ける。変えて▲2二飛などは△7七角打から危険と見た手だ。
ここでソフトは激しい手を読んでいた。
変化図
△同龍!
いきなり切ってしまう。
▲同金は△同銀成。この手が△7九角打からの詰めろ。
以下、▲7八玉で難解だが、ソフトは後手有利との評価。龍切りはあったかもしれない。
本譜は△6一香打と受けの手。もちろん、こちらも大事な一手。
難解な終盤を後手が制す
少し進み、▲8二飛打に△6五銀!
最善手かどうかは微妙だが勝負手。ソフト評価値は互角。
先手は銀を取らず、▲7二歩成、△5四玉、▲8四飛成、△6六金、▲5六歩!
難解過ぎる終盤が続く。
▲5六銀打に△4三玉。
▲6四龍に△5二桂打!
▲同馬で危険そうに見えるが、まだ大丈夫そう。
▲同馬、△同金に▲4四銀。形勢はついに後手勝勢に。
▲3三歩、△同桂に▲6一龍。しかし、これは首を差し出した手。
先手玉には詰みがある。
△7七金打!
この手を見て先手は投了。
以下、詰みの例はこちら。
というわけで、羽生九段はまたしても一手損角換わり7二金型右玉で勝利。この戦法のフォロワーがなかなか現れないのが不思議だが、今後も羽生九段は採用してくれるだろう。
右玉NOWは、羽生九段を応援しています!