2020年11月20日に行われた朝日杯オープン戦二次予選で、先手番の久保利明九段が対振り右玉を指してくれたので紹介したい。
久保利明九段は生粋の振り飛車党。ほかの振り飛車党が居飛車に転向しても振り飛車党を貫き、かつトップクラスの実力を維持する振り飛車党憧れの存在。最近では雑誌Numberでのダンディーな写真も話題になった。久保九段が右玉を指すのは公式戦初とのことで、久保九段が右玉を指すなら耀龍四間飛車からの変化と考えていたが、対振り右玉とは意外する結果だ。
対する後手は井上慶太九段。久保九段同様、関西所属の強豪で、こちらは居飛車党。人格者として関西棋界ではとくに尊敬を集めており、師匠としても優秀だ。井上門下は稲葉陽八段、船江恒平六段、菅井竜也八段ら、トップクラスの棋士が多い。
本譜は井上慶太九段がまさかの振り飛車、久保利明九段が対振り右玉で迎え撃つという誰も予想できない展開となった。
動画はこちらからどうぞ
棋譜はスマホアプリ「日本将棋連盟モバイル」で観戦できるのでそちらでどうぞ。
久保九段の対振り右玉
序盤、井上九段が予想外の向かい飛車へ。相振り飛車になると思いきや、先手は▲4八銀。これで振り飛車の可能性がなくなり、対振り右玉、いわゆる糸谷流右玉と呼ばれる形になった。将棋連盟モバイルのコメントによると、久保九段の振り飛車はデータベースにないとのこと。
糸谷流右玉はアマチュアでは人気だが、プロ棋戦ではめったに登場しない。ソフト評価値的には悪くないのでもっと増えてもおかしくないが、ほかの対策が優秀なのだろう。
ちなみに久保九段は2007年のNHK杯対行方尚史九段戦で対糸谷流右玉を相手にして勝利している。
参考:
2007-09-17 NHK杯久保利明 vs. 行方尚史 NHK杯
久保九段の対振り右玉は▲5八金型。後手は穴熊へ。右玉完成時の評価値はわずかに先手寄りの互角。先手まずまずという感じだろう。
粘りのアーティスト
戦いが始まったのは6筋から。お互いに6筋に飛車を振り、後手が快調に攻めて、先手が丁寧に受ける展開。
先手有利な局面が続くが、105手目に飛車を6筋に行ったのやや緩手だったか。飛車を狙われる展開になり、徐々に評価値は後手よりになっていく。
後手はたけわらべのように執拗に飛車を追いかけ確保。持駒は少ないが、先手が飛車に弱い陣形だけに、後手有利の展開に。
しかし、ここからの久保九段の粘りはすばらしい。まさに粘りのアーティスト。決め手を与えず、逆転に成功した。
気がつけば美濃囲いに
181手目の局面、一時は風前の灯だった先手陣は美濃囲いに。後手も固いが戦力の差は大きく、先手勝勢へ。
そして、223手目、桂馬を外した手を見て、後手井上九段が投了。久保の勝利となった。
本日は井上九段、船江六段との連戦(朝日杯)の対局でした。
井上九段戦は序盤は振り飛車対右玉でしたが、まずまずの駒組みでした。
中盤から劣勢になり、耐え続ける展開でしたが、終盤163手目▲63歩と叩いた辺りから好転したように思います。
その後も難解でしたが、何とか勝ちきれました。— 久保利明 (@toshiaki_kubo) November 20, 2020
というわけで、貴重な久保九段の対振り右玉の一局でした。
不利になってからの粘りは本当に素晴らしく、右玉党にとって参考になるだろう。
というわけで、右玉NOWは久保利明九段を応援します!