今回は2021年1月に発売された北島忠雄七段著「居飛車の全戦型に対応 なんでも右玉」のレビューを紹介したい。
対居飛車の右玉を扱うプロの棋書としては、青嶋未来六段の名著「変幻自在!現代右玉のすべて」以来。というわけで、期待が高まるところ。
本書の特徴は矢倉編、角換わり編、△4四歩編(雁木・風車)、相掛かり編と幅広く扱っていること。
右玉はすべて後手番で、盤面はひっくり返していない。ここらへんは、「現代右玉のすべて」と同じ。
以下、どのような内容を触れているか簡単な紹介をしよう。
第1章 矢倉編
矢倉編
第1章は対矢倉。飛車先の歩を受けないのは現代調という感じ。
☗2五歩型
先手が早々に▲2五歩を決める形。
☗6七歩型
先手が☗6七歩のまま速攻を狙ってくる場合の対策。
2筋突破に対する受けの好手もあり。
矢倉中住まい
右玉ではなく、中住まいにする戦い方。
☖3三角型
▲2五歩に対して△3三角とする指し方。
比較的出現しやすい局面であり、本書でも幅広い変化を扱っている。
第2章 角換わり編
角換わり編
角換わり右玉の基本図。いわゆる▲5二金型。
▲4五桂対策や、セカステ右玉風の駒組みも軽くだが触れている。
対▲4二金型や地下鉄飛車に組まれる前の工夫もあり。
後手☖4二銀型
△4二銀型で角交換を誘い、△2二金型のまま進める作戦。
青嶋未来六段著「現代右玉のすべて」の「角交換型風車右玉」でも紹介されている形。
対棒銀戦法
角換わり棒銀対策。本書通して言えることだが、反撃含みの対策を中心に紹介している。
対☗4五桂急戦
角換わりの脅威である▲4五桂速攻対策を紹介。
一手損角換わり右玉対策棒銀
一手損角換わりの棒銀対策。先手は1筋からではなく、3筋から攻めてくる場合を想定しており、後手は四間飛車で受ける。
一手損角換わり右玉対策早繰り銀
一手損角換わりの天敵である早繰り銀対策。
たた、上図のようにちょっと変わった形。先手が手損を咎めるべく速攻する対策も知りたかったところ。
第3章 ☖4四歩型
☖4四歩型
△4四歩と角道を止めて、△4三銀とする戦法。雁木右玉や風車右玉と呼ばれる形だ。
角交換型
今度は、角交換型雁木右玉、角交換型風車右玉と呼ばれる形。右玉にこだわらず、場合によっては左玉で戦うパターンも紹介している。
☗3七銀急戦
先手は角道を開けたまま急戦を狙う。後手は右玉にする余裕はなく、しっかりと受ける必要がある。
対右四間飛車
第4章 相掛かり編
相掛かり編
相掛かり模様の出だしから後手は右玉へ。
☗5八玉型
プロ棋戦でも頻出の▲5八玉型への対策。7八金型右玉で対応する。
「なんでも右玉」のレビュー
右玉欲張りセットという感じで、非常に広い範囲をサポートしている。右玉の手筋も多く、初心者、中級者にはおすすめだ。
手待ちの変化もほとんどなく、右玉側が気持ちよく攻められる変化が多い。
それから、「なんでも右玉」というタイトルながら、右玉にしないケースも多い。これは、相手がこう来たら右玉にしにくいよ、ということを解説しているのであって、個人的には非常に評価したい。
一方で、最先端を追っているわけではなく、プロの実戦譜もかなり少ない。アマ高段やプロ向けではないだろう。
後書きにはこう書いてある。
本書はプロが参考にするような高度な定跡ではなく、アマチュアの方が読んでわかりやすいようになるように心がけました。あと、AIで検討してないので、もしかしたら形勢判断に一部誤りがあるかもしれませんが、あくまでも棋士の感性を基準にして局面の判断をしております。
とのこと。
個人的には現代の棋書はソフト検討のチェックを入れてほしいところだが、ここらへんは著者のポリシーなので仕方ないところ。
すべてを細かくチェックしたわけではないが、気になる変化もある。
以下は本書、第一章、第5図途中の局面。
手順中、△6三金は、先手有利(+700超)。▲4五桂なら先手の攻めが決まりそう。
本書では▲4五桂ではなく▲5五歩として互角の局面となり、最終的に後手ペースとして締めくくっているが、あまり飛び込みたくない変化だろう。
というわけでまとめると、
・右玉初心者、中級者向けの良書。右玉の手筋も多く、右玉感覚は向上しそう。
・最先端を追っているわけではなく、アマ高段やプロ向きではない。
・ソフト検討は入ってないので、微妙な変化もあるかも。
という感じだろうか?