2021年9月6日に放送されたNHK杯将棋トーナメント(いつもとは違う深夜放送)にて、後手番の丸山忠久九段が羽生流右玉(一手損角換わり7二金型右玉)を採用してくれたので紹介したい。
丸山忠久九段は名人位の経験もある羽生世代の強豪。一手損角換わりのスペシャリストで、本局も一手損角換わりとなった。相手の手を殺す「激辛流」としても有名。
対する先手は糸谷哲郎八段。関西の強豪にて、屈指の人気棋士。こちらも一手損角換わりは得意にしており、「現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~」という棋書も出している。右玉の採用も非常に多く、対振り飛車の戦法「糸谷流右玉」はアマチュアに人気だ。
棋譜は公式サイトの以下からどうぞ。
2021年09月06日 第71回NHK杯2回戦第5局
本譜の局面図はNHK様の許諾をいただき公開しています。
動画版
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丸山九段、羽生流右玉を採用
丸山九段の作戦は得意の一手損角換わり。
先手の作戦は角換わりの定番・早繰り銀。後手は7二金型で右玉目指す。
後手、7二金型右玉へ。いわゆる羽生流右玉だ。
この形は、先手が妥協なく攻めると厳しそうだが、今回のようにお互いの出方を牽制しつつであれば十分に成立しているだろう。
現局面のソフト評価値は互角。後手番としてはまったく不満はない。
後手は積極的に銀をぶつける。ソフトも推奨の一手で、丸山九段の研究範囲内かもしれない。
後手、端から逆襲
上図は先手が飛車先を切ってきた所。右玉党なら△2三歩は最後に考える手。
ここで丸山九段の狙いの一手が出る。
△9五歩!
7二金型を生かした端からの逆襲。こちらも研究範囲内か。
同歩に△9七歩の垂らし。▲同香は△8五桂があるので指しにくい。
先手は右玉の急所である▲7五歩から反撃。
△同歩に▲5六角と、対右玉の手筋。
ただし、ソフトの評価は後手有利。丸山九段の作戦勝ちと言ってよいだろう。
糸谷八段の豪腕炸裂
59手目▲4三香はすごい一手。糸谷八段らしい豪腕。
飛車でも金でもタダで取れるが、△同飛は▲2一飛成、△同金は▲2二飛成がある。
後手としても対応に難しい。
実は勝勢になる手もあり、それは、飛車の取り合いになる△2三歩! 長時間の対局なら指せるかもしれないが、短時間戦では難しいだろう。本譜は△同金▲2二飛成と進んで形成はやや縮まった。
先手の猛攻に受ける後手
77手目の局面。▲5二金で先手の攻めが決まったようにも見えるが、局面はまだ互角。
しかし、受け切るのは容易ではない。
△同銀は▲4二龍が厳しく(▲4二龍△6二玉▲7二歩成△6三玉▲7三と△同玉▲5二龍が詰めろ。以下変化図で詳しく紹介)、△同金は▲4一龍で負け。
△3二金と龍と外す手は△8三桂打の一手詰み。
互角を維持する手は一手しかない。
正解は△9七角! の王手。
桂合は△8三桂打の筋がなくなるので、△3二金と龍と外して勝ち。
金の移動合いは△5二銀▲4二龍のときに△8八角成から詰みがある。
というわけで、先手は▲7九玉と逃げるしかない。
△9七角の効果は、▲9七角を入れずに進んだ以下の局面(変化図。先述の△同銀▲4二龍△6二玉▲7二歩成△6三玉▲7三と△同玉▲5二龍)が詰めろにならないこと。
変化図
ここで△3一飛と逃げると、9七角があれば不可能だった▲8八桂も絡んで詰んでしまう。
本譜は△5二銀▲4二龍に、△6七香!
この香打ちが王手になるのも△9七角の効果。
桂合いが最善だったようだが、本譜は▲同金左。ソフト評価は後手勝勢に。
△6二玉から逃げ切りを図り、▲7二歩成△6三玉▲7三と△同玉▲5二龍と進行する。
後手逃げ切る
89手目の局面。先手は▲8二龍が残っている他、持ち駒も豊富だがソフト評価は先手勝勢。後手は意外と広く寄らないようだ。
後手は△7八銀!
▲同玉は△6七桂成から詰み。
この銀が取れないのは辛い。
最後は激辛流で勝利
109手の局面。先手玉に手はついていないが、先手も攻めにくい。
少し進んで△3九角!
一気に先手玉は狭くなったが、糸谷八段も▲1七銀で粘る。
さらに進んで△3四馬と銀を取った局面。攻め駒を外しつつ馬の守りも強大、さらに先手玉は一手一手となり、ここで糸谷八段が投了となった。
というわけで、羽生流右玉からギリギリの受けを経て丸山九段の勝利。
端攻めからの反撃は参考になるはずだ。
右玉NOWは今後も丸山忠久九段を応援します!