王位戦予選トーナメント、渡辺明棋王と石井健太郎五段の一局で、石井五段が角換わりから右玉を採用してくれた。
渡辺棋王と言えば、永世竜王の資格を保持するトップ棋士。羽生竜王と藤井七段と比較すれば、世間の知名度は低いかも知れないが、将棋ファンであれば誰もが知っている人気棋士だ。
一方の石井五段は、若手棋士の強豪。デビューから5割以上の勝率を続けているが、最近はとくに好調で、ここ14戦だけを見れば12勝2敗という好成績。今年度も23勝9敗と勝率は7割を越えている。振り飛車を指すことが多いが、この一局では右玉で戦うことになる。
棋譜は以下からどうぞ。
2018-10-25 王位戦渡辺 明 棋王 vs. 石井健太郎 五段 第60期王位戦予選
角換わり右玉のスタンダードな局面へ
角換わりから、後手の石井五段は右玉へ。
非常にスタンダードな右玉で、渡辺棋王相手にどれだけ通用するのか? 右玉党にとっては興味深い局面となった。
後手の右玉から仕掛ける
3五歩と、右玉からの積極的な仕掛け。この手が成立するかどうかは、右玉党にとっても大きなテーマ。
後手からは、4五歩と攻め合う手、4七銀や2六飛で桂頭を受ける手も考えられる。
対する渡辺棋王は4五歩。
こうなると、数手は一直線。
3六歩、4四歩、3七歩成に対して2六飛。
銀桂交換ながら、後手はと金作りに成功。
局面は互角だが、右玉側も指しやすく不満はない。
4四歩も考えられたが、石井五段は4五角打。
ソフトも最善手なので、覚えておきたい手だ。
続いては、先手が3八飛として、対応を打診した手。
後手としては、3八歩打と先手を取るか、3六歩打にするか悩ましい。
石井五段は時間を使って3六打を選択。ソフトの最善手でもある。
左桂の活用で攻めを継続する
先手の端攻めは手抜いて、3三桂。
右玉としても左桂は活用したい。
1四歩の取り込みに、さらに4五歩。先手はこのまま5七桂成を許すわけにはいかないので、受ける必要がある。
渡辺棋王は4六歩打。
角を呼び込んでから銀を取ることで、4四桂打ができる効果がある。
一方で、歩切れにもなるので両刃の剣でもある。
同角、4五銀、同歩、4四桂打。
この局面でのソフト評価値は-400程度。右玉有利だ。
矢倉崩しの8六桂打
先手は3四角打と角を手放す。
ここで先手の手は広い。攻めるか、陣形整備するか。
石井五段は矢倉崩しの手筋である8六桂打を敢行。
渡辺棋王は銀桂交換は感受し、8七銀打と堅く受ける。
後手、踏み込む手を逃す
少し進んで次の局面。後手が5五角と天王山に出たところに、先手は5六金打と堅く受ける。
非常に難解な局面で、石井五段も熟考。ソフト評価値は右玉わずかにリード。
石井五段の選択は4四角。緩手とまではいかないかもしれないが、評価値は急落。
7七角成と切る手もあったかもしれない。
以下は変化図。
変化図の1つは、7七角成、同金、6四桂打。
この局面は後手有利。先手の指し手はソフトも迷うようで、6六角打や6五桂打という難解な手を候補に上げている。
先手もチャンスを逃したか
次の局面。
ソフトの評価値は700近く先手に振れて逆転模様。
次の渡辺棋王の手は6三歩打の焦点の歩で悪くはなかったが、決め手が合ったかも知れない。
以下はソフトの予想手。
5二銀打!
右玉側の受け方も難しい。
ソフトは4二金打を予想。
以下、6一銀打。同金は6一銀、同飛、7三金、6一角成で後手崩壊。なので8三玉と逃げるが、5一銀不成から手が続く。
秒読み中の「事件」
少し飛んで終盤。両者1分将棋に入った状態。
渡辺棋王は、4四馬と勝負手を放つ。
取るか、逃げるの2択だが……。
石井五段は、同玉。
しかし、この手は大悪手。後手玉に詰み筋が生まれてしまった。
読みきれるだろうか?
脊尾詰によると27手詰め。
渡辺棋王も順調に手を進めるが、次の局面。
記録係が、「30、40秒」と10秒読み間違えてしまう。
記録係「50秒~」
渡辺棋王「ええ!?」
そして、次の手が4五金打。
これで詰み筋から外れてしまう。
石井五段、受けの鬼手炸裂!
しかし、受ける側も難解な局面。2九飛と回る。
次の石井五段の手はすごかった。
詰みを免れる手は、2種類しかない。1つは2八飛だが、石井五段はもう1つの手を選択する。受けの勉強として考えてみてほしい。
2八と!
驚異の移動合。
手の意味は、2六合駒したときに、飛車切りされたときに、3七へ抜けるルートを開けるという意味。
1分将棋でこの手をさせるのは驚異的だ。
この瞬間に3七とが存在すると、飛車切りから詰んでしまう。
以降は、石井五段が逃げ切り勝利。
渡辺棋王相手にジャイアントキリングとなった。
右玉が超強豪相手に通用した事実は、右玉党の大きな力になるだろう。
石井五段は、今後も応援していきたい。