2019年6月14日、A級順位戦1回戦 渡辺明二冠 vs 木村一基九段戦で、後手の木村九段が右玉を採用してくれた。
木村一基九段といえば、「おじさん」や「おじおじ」の愛称でも人気。
先日の王位戦挑戦者決定戦では羽生九段を破り、タイトル挑戦を決めている。
一方の渡辺明二冠は先日の棋聖戦第一局こそ破れたが、直前まで強豪ばかりを相手にして10連勝。現在トップの実力といっても過言ではない。
棋譜は以下からどうぞ
2019年6月14日 A級順位戦1回戦 渡辺明二冠 vs 木村一基九段
木村九段、セカステ右玉で待機
序盤は角換わりの同型。かなりの流行型だ。
先手は入場。後手は飛車を4筋に振ったあと、玉を6二へ。公式戦でよく出てくるセカステ右玉の形になった。
後手は、玉は左金を動かして手待ち。相手の形が乱れたとき以外は攻めないという戦略だ。
先手をポイントをあげさせないように凌ぐ
先手は4五歩から仕掛け。同歩、同銀で一歩手に入れるが、後手は4四歩とは収めない。
3二金。4四歩打とすると、同銀左、同銀、同銀となった形は先手有利。ソフト評価値も後手に+450以上振れる。
というわけで、4筋はお互いに歩を打たず、再び手待ちの様相に。
先手は4五桂と右桂をさばきに行く。4四銀、4六歩打、3三桂、同桂成、同銀で、お互い桂馬を手持ちに。
少し進んで、先手が飛車を6筋に振って、5七桂と設置したところ。玉頭を狙う作戦だが……。
7二桂打が大事な一手。これで潰れることはない。6五歩から先手は仕掛けるが、最終的には先手が6六歩と収めざるを得ない局面になって、均衡状態は続く。
右玉から仕掛ける
このままお互いに打開ができず、千日手もありえるかと思いきや、先手が7二玉に繰り替えたところで、後手の右玉から仕掛ける。
8六桂打!
矢倉崩しの手筋だが、成立しているかどうかは微妙。しかし、迫力のある仕掛けだ。
同歩、同歩に7九桂打と先手はしっかり受ける。この時点の局面はわずかに先手が良さそうな互角。
9五歩、同歩、9七歩と後手が端攻めした局面で、8五歩打。
後手は9六角打!
この手を先手は軽視したかもしれない。渡辺二冠は長考。
厳しそうに見えるが、局面は先手有利。
長考の末の手は8七桂打。6八玉と逃げたほうがよさそうだったが、さすがに怖いか。
この時点でも、ソフトの評価値はわずかに先手よし。しかし、実戦的には後手もやる気が出そうだ。
8五飛、8六銀、同飛、9七香までパタパタと進む。後手の攻めが細い印象だが、ソフト評価値はまだ互角。
ソフトの候補手はなかなかすごい。
変化図
角を見捨てて8八歩打!
ここで9六香と角を取るのは8九歩成、同玉、9六飛で先手勝勢。
なので、7七金、8一飛、8八玉、8七角成、同金、8六歩と進み互角という読みだ。
本譜は8七角成と角を切って、同桂、9六歩、7七金(上図)と進行。先手がやや有利になってしまった。
後手の攻めが切れる
後手の継続手は8五銀と打つ。変えて、8六歩打が見えるところだが、無視して9四歩で先手が優勢になる。
少し進んで、設定した桂馬を跳ねたところ。ここが最後の勝負どころ。
渡辺二冠は最善手の8六金!
金が浮いてしまうが、9七桂成などから金を取ろうとすると、9五角打の王手飛車が決まる。
後手はタダのところに7六香打!
同金と取ると、8七銀成で、同玉なら8七桂成が決まる。これでも、先手がややよしだが、冷静に6七玉と逃げるのが好手だった。
後手は9七桂成とするが、8二歩打から歩の連打をされて、8四歩打の時点で投了。
同飛は9五角、同桂は8筋が重すぎる。攻めは切れており、少し早いが投了もやむなしか。
というわけで、残念ながら右玉を採用した木村九段は負けてしまったが、千日手も狙えたところを積極的に攻めて見せ場は十分にあっといえるだろう。
右玉NOWは今後も木村一基九段を応援します!