2019年7月21日に放送されたAbemaTVトーナメント決勝戦第1戦で、後手番となった糸谷哲郎八段が一手損角換わり右玉を採用してくれた。
糸谷八段はプロ棋士の中でも右玉の名手として有名。「ダニー」の愛称でも人気で、竜王位の経験もある関西所属のトップ棋士だ。
対するのは棋界のニューヒーロー藤井聡太七段。AbemaTVトーナメントは第1回大会で優勝しており、ある意味、藤井七段のための大会と言ってもよいだろう。
AbemaTVトーナメントは、持ち時間5分、一手指すごとに+5秒が増えるフィッシャルールを採用した超早指し戦。先に2勝したほうが勝利となる。
本局は一手損角換わり右玉と中住まいの戦いとなった。
棋譜は以下からどうぞ
第2回AbemaTVトーナメント決勝1回戦 糸谷哲郎八段 対 藤井聡太七段
AbemaTVの見逃し配信がこちら。解説は羽生九段!
第2回AbemaTVトーナメントついに決勝 糸谷哲郎八段 対 藤井聡太七段
※7月27日までは無料で視聴できると思います
一手損角換わり vs 中住まいの戦いに
糸谷八段の作戦は一手損角換わり。
寄り道をせず、ストレートに右玉へ。最初から後手番なら右玉と決めていたのかもしれない。
中住まいへ。対右玉の有力な作戦のため、アマチュアの対局でも出現しやすい。
また、端歩を詰めているので相右玉も考えられる(実現せず!)。
個人的には2二角打から攻めることが多いが、ソフト的には評価が低い。
右玉党にとって課題局面と言えるだろう。
一方で、中住まい側も相当指し慣れていないと難しいという印象がある。
参考エントリは以下
右玉 vs 中住まい その1 ~現時点で有力な対抗策なし
右玉の天敵の1つが、中住まいによる対策だ。 最近、ネット将棋でも増えつつある。具体的には以下の局面になる。 一見すると攻略できそうな形だが、予想以上にうまくいかない。 そこで、ソフトを使ってこの局面から一手30秒で対局させてみた。
右玉、5筋位取りで戦う
5筋の位を取ることは有力な対策の1つだ。糸谷八段も研究の範囲だろう。
先手は飛車先の歩交換。
3五歩も考えてみたいが、ここでは成立しなさそう。
3三桂はあるかもしれない。
糸谷八段は素直に2三歩打。
先手は5六歩からの反発。
ここで6八玉へ再移動。
4七角を巡る戦い
後手の3五歩という桂頭を狙った手に対し、先手は4七角打。
こちらも対右玉の手筋である角打ちだ。右玉側もうまく受ける必要がある。
5五歩で銀に下がってもらってから3六歩打。
後手は、5四角打で角を消す。こちらも右玉側でよくある手筋。
放置すると、7五歩、同歩、7四歩打が厳しい。
同角、同銀に2七角打。
やはりこのラインが急所。後手からの3六歩打も消している。
5三金で受ける。
先手は7九玉で囲いの方へ。
ここで右玉側に6五歩があったかもしれない。
2七の角が睨みを効かせているので怖すぎるが……。
変化図
仮に同歩なら、9五歩と端を絡めて、同歩、9七歩打、同香、6五桂、8八銀、5六歩、5八歩打、5五銀、6五歩打、3五角打が進行の一例(以下変化図2)。
変化図2
この局面は互角で、右玉満足といえるだろう。
ただし、6五歩に同歩以外に3九飛などの手もあるのでまだ難しいところだ。
本譜は3一飛。
角筋に入っている飛車を移動させ、攻撃にも使えるようにした一石二鳥の手にもみえるが、ソフト的にはやや緩手。
しかし、結果的には3六歩打を打たせることに成功したので、後手も満足かもしれない。
先手の好手5六歩打
少し進んだ局面。この5六歩打が好手だった。放置すると、5五歩の取り込みが厳しいが、取ると、5六角。次の2三角成の強襲が厳しい。
同歩、同角、5五歩打に2三角成が実現。同金、同飛車成で飛車が成り込むことに成功し、形勢はハッキリ先手へ。このあと、形勢が後手に振れることはなかった。
正確な寄せと超絶技巧の受け
局面は終盤。116手目に後手が8二銀打と受けたところ。
ここから藤井七段は超早指し戦と思えないほど正確な寄せを披露し、糸谷八段も正確に受ける。
投了まではなんと29手。ぜひ、本譜を並べてみてほしい。
この局面だけ並べたい方はこちら
最後は7三金で投了。8一玉は9三桂打から詰みなので、6一玉と逃げるしかないが、6三金で必至。投了もやむ得ないだろう。
というわけで、右玉側は負けてしまったが、右玉NOWは今後も糸谷哲郎八段を応援します!