羽生流右玉とは2019年に羽生九段が採用し、連勝を重ねた戦法。右玉NOWでは7二金型右玉と呼んでいるが、ネット上では羽生流右玉と呼ばれることが多いようなので、ここでは羽生流右玉とする。
そんな羽生流右玉だが、最初に指したのは誰なのだろうか?
「そんなの羽生九段に決まってるじゃん!」
という意見はあるだろう。
もちろん正解である。
プロ棋戦で最初に指したのは(恐らく)羽生善治九段。
2019年5月20日王座戦挑戦者決定トーナメント対近藤誠也六段戦が、その一号局だ。
これ以前に指された公式棋譜は確認できていないので、プロ棋戦における1号局の可能性は高い。
では、「最初に指した」とはなにか?
元々7二金型右玉は、将棋ソフトが好んで使っていた戦法なのだ。
強豪ソフトJKishi18gouは採用例が多い。例えば以下の対局は7二金型右玉である。
37542328_0116_sh0528_2832_xo_JKishi18gou_3082
これは2018年1月16日の対局なので、羽生九段より先であることは間違いないだろう。
というわけで、棋譜が残っている中で、将棋ソフトが最初に指した羽生流右玉を探っていきたい。
そもそも羽生流右玉の定義は?
羽生流右玉とは、正確に言えば後手番一手損角換わり7二金型右玉という作戦である。羽生九段が指した5局はすべてこれ。バリエーションとしては手損のない正調角換わりでの7二金型右玉、先手番の3八金型右玉などもあり、こちらも羽生流右玉と呼ぶのが一般的だと思う。
が、今回は正式な「後手番一手損角換わり7二金型右玉」に絞って調べていきたい。
今回はこの形を追う。
floodgateの2008年の棋譜データを漁る
ソフトの棋譜が大量に公開されているサイトと言えば、floodgate。
素晴らしいことに2008年の棋譜から一括ダウンロードできる。神としか言いようがない。
というわけで、まずは最古である2008年の棋譜をダウンロードしてみた。
全50,617局である。ここにあれば話は早い。
果たして7二金型右玉はあるのか……。
専用の謎ツールで検索……。
あった!
wdoor+floodgate-900-0+gps_normal+Blunder+20081007080002.kif
2008年10月7日、gps_normal vs Blunderの対局である。
見事な7二金型右玉!
しかし……角交換してない! いきなり定義からそれてしまった。これはダメ!
2014年の棋譜でついに発見!
その後も2009年、2010年、2011年と探していくが、一手損角換わり7二金型右玉は見つからない。
2012年、2013年もない。
ちなみに対局数は
2013年: 113,707局
2012年: 116,441局
2011年: 86,932局
2010年: 108,518局
2009年: 73,053局
そんな中ついに、該当する対局を発見してしまった!
2014年の棋譜データからである。
wdoor+floodgate-900-0+gps_l+Titanda_L+20140702090002.kif
対局日は2014年7月2日。gps_lとTitanda_Lの対局。指したのは後手番であるTitanda_Lである。
というわけで棋譜を見てみてよう。
一手損角換わりの出だし。
7二金型右玉の完成!
この対局が羽生流右玉の元祖と言ってよいのではないだろうか?
羽生九段が指す5年も前である。
対局もTitanda_Lの勝利となった。
謎の将棋ソフトTitanda_L
というわけで、羽生流右玉を最初に指したのはTitanda_Lということになったが(右玉NOW調べ)、Titanda_Lとは一体何者なのか?
名前の由来は、恐らく氷菓のキャラクター「千反田える」から来ていると思われるが……。
千反田える
ググってみたらこんな記事を見つけた
【floodgate】KKS_Nbook 名局選② 強豪Titanda_Lに挑む – 根岸の部屋より
相手のTitanda_Lはその時期の最新ソフトを搭載していることで有名で、常に高いレーティングを維持している強豪である。
なるほど……。
Titanda_Lというエンジンがあるのではなく、何かしらのエンジンを搭載しているということか。2014年の頃のエンジンは何だったんだろう……。
ちなみに現在もfoodgateに流されているようだ。
レーティングは4000超え。恐らく2014年当時とは別のエンジンを搭載しているのだろう。
まとめ
以上、右玉NOW調べで抜けがあるかもしれないが、羽生流右玉を最初に指したのは2014年の「千反田える(Titanda_L)」ということになった。これは想定外の結果。
というわけで、7二金型右玉は千反田流右玉と呼んでもおかしくないのかもしれない。