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【2023年8月版】将棋ソフト用のパソコンの選び方

将棋ソフト

掲示板にも質問があったので、将棋ソフトのためのパソコンの選び方を紹介したい。

※2023年8月23日に更新しました

いきなり結論にはなるが、ほとんどの将棋ファンにとっては、将棋ソフト用パソコンは一般的なノートパソコン程度のスペックで十分だと思う。

それでもトッププロ棋士よりも遥かに強い棋力があるし、半分くらいの棋士は角落ちでも勝てないのでは? と思う強さだ。
気になる局面は時間をかけて検討させれば、ある程度精度も高くなるだろう。

一方で、棋士、女流棋士、奨励会員、アマトップのガチ勢、将棋ソフト開発者などは、少しでも強い方が良いことは間違いない。

佐々木大地五段曰く

森下卓九段が、古いノートパソコンでもAI(人工知能)を使った研究ができるか佐々木大地五段に尋ねたところ、やんわりと止められたという。「空母打撃群に竹やりで挑むようなものらしいですよ」とは森下九段の弁。

というわけで、プロ棋士であるならば、研究用にハイスペックなパソコンが必要なのは間違いないだろう。
ただし、金に糸目を付けずに最高スペックを求めてしまうと軽く100万円を超えてしまう。本気を出せば1,000万円を超える構成すら考えられるので、それは現実ではないだろう。
そこで、あくまでコストに見合った性能のパソコンを検討してみたい。
なお、対象はWindowsパソコンで、MacやLinuxなどについてはここでは紹介しない。

NNUE系かディープラーニング系か

パソコンを考える前に、現在トップクラスの将棋ソフトを紹介したい。
異論がある人もいるかも知れないが、やねうら王(水匠5)(水匠6,7は現在一部のみ公開で通常は手に入らない)とdlshogi(こちらも最新版は非公開)の2つがトップ2と言ってもよいだろう。
両者とも無償で公開されており、誰でも利用できる。開発者の皆様には超感謝したい。

「フリーソフトではなく、市販の将棋ソフトははもっと強いのでは?」と考える人もいるかも知れない。が、現状では市販の将棋ソフトでこの2つ以上の強さのものはない。ただ、市販将棋ソフトはインストールが超簡単だったり、女流棋士の読み上げ機能や、レベルを落とした対局など付加価値も多い。それでも、プロ棋士や奨励会員がガチの研究用途で使うにはあまりおすすめできないだろう。

水匠とdlshogiのどちらをメインに使うかということによっても、パソコン選びに影響する。

水匠はNNUE型でCPUの性能が強さに直結する。CPUのコア数も多ければ多いほど良い。GPU(グラフィックボード、グラフィックカード)は性能にはほぼ無関係だ。
一方のdlshogiはディープラーニング(深層学習)型で、CPUの影響はそれほどなく、GPUの性能が強さに影響を与えるのだ。

研究にやねうら王系(水匠5)しか使わない、というのであればGPUの性能は無視できるし、ディープラーニングの伸びを期待してdlshogi一本で行く、というのであればGPUを重視したほうがよいだろう。

今後、NNUE型とディープラーニング型のどちらがより強くなるかわからないが、2023年現在でもほぼ互角といえるだろう。

【CPU】性能面はRyzen Threadripper PRO 5995WXが最強、現実的にはRyzen 9 5950Xか

まずはCPUについて考えみたい。
お金を目につけないと言うならば、2022年8月12日発売のZE3アーキテクチャ採用の64コアCPU、Ryzen Threadripper PRO 5995WXが2023年8月時点でも最強だ。藤井聡太六冠がAMDからプレゼントされたことでもおなじみのCPUである。
ただし、価格もCPU単体で100万円と超高額。
後継のRyzen Threadripper PRO 7985WXも登場予定だが、恐らく2024年になるだろう。

前バージョンであるRyzen Threadripper 3990Xは、渡辺明名人、阿部健治郎七段、佐々木勇気七段、木村一基九段らも利用している。ただし、5995WXの価格はCPU単体で107万円以上と超高額。1ランク下げた32コアのRyzen Threadripper PRO 5975WXでも54万円はかかる。

Ryzen Threadripperシリーズは、「スレッドリッパー」という名前から「高級スリッパ」と呼ばれることもある。趣味レベルで購入するのは厳しいかもしれない。

現実的なラインで言えば、2022年9月に発売されたAMD Ryzen 7000シリーズがおすすめ。
16コアのRyzen 9 7950Xは7~8万円台、12コアのRyzen 9 7900Xは8万円中盤で購入できる。
8コアのRyzen 7 5700X、6コアのRyzen 7 7600Xもコストパフォーマンスが良い。

インテルの第13世代CPUもおすすめ。
ハイエンド24コアのCore i9-13900KはRyzenのハイエンドと比べても遜色はない。価格は9万円弱。

【GPU】GeForce RTX 4090が登場するが高額

GPUは仮想通貨のマイニング需要やコロナ禍での半導体不足などで高騰していたが、やや値下がりしつつある。
最強クラスを求めるならば、NVIDIAのGeForce RTX 40シリーズがおすすめ。最上位のGeForce RTX 4090は、2022年10月12日発売され、29万8,000円から。やや性能が劣るが割安なGeForce RTX 4080が2022年11月に発売された。

前世代となる「GeForce RTX 3090 Ti」は、国内価格はかつて30万円以上していたが、現在は20万円程度まで下落している。ワンランク下げた「GeForce RTX 3080 Ti」は15万円前後から購入できるので、そちらもおすすめ。40シリーズ発売でさらに下落する可能性もある。

お金に糸目をつけないなら、2022年12月発売の「RTX 6000」という選択肢もある。こちらはGPU単体で110万円ほどになる。

※ちなみに将棋ソフト用としてのGPUはNVIDIA一択。AMDのGPUはTensorCore非搭載なので推奨しない(掲示板でのご指摘ありがとうございます)

コストパフォーマンスの面では、「GeForce RTX 3060 Ti」が比較的流通量が多く、6万円前後で購入できる。

さらに性能を落としたミドルレンジであれば、2022年1月に発売となった3万円代から購入できる「GeFoerce RTX 3050」、さらには「GTX1660Ti」「GTX1660 SUPER」あたりもありだろう。

【メモリ】メモリはどれくらい搭載すればよいか?

メモリに関しては最低でも16GB以上はほしいところ。dlshogiはメモリ消費が大きいので、32GB以上ほしい。
メモリに関しては、あとから増設で増やすことも可能。ただし、本体(マザーボード)によって最大搭載量は異なるので、購入時に最大メモリ容量は調べておいたほうが良いだろう。

ノートパソコンではだめなのか

ここまでの話は基本的にデスクトップパソコンの話である。

ノートパソコンではだめなのか? という意見もあるかもしれない。前述した通り、ほとんどのユーザーにとってはノートパソコンでも十分。プロの研究用途であってもノートパソコンでもゲーミングPCなどれであれば、CPUとGPUの性能は高く、十分に実用的だろう。
ただし、コストパフォーマンスはデスクトップと比べると悪い。

どうしてもノートパソコンで動かしたいのであれば、ハイエンドのデスクトップパソコンを用意し、ノートパソコンからリモートデスクトップで繋いで利用する、という方法もあるのでおすすめだ。
デスクトップパソコンの電源が入る状態にしておけば、外出先からでも高性能パソコンを使った検討ができるだろう。

プロ棋士が使っているパソコンの性能は?

それでは、プロ棋士はどのくらいの性能のパソコンを使っているのだるか?

藤井聡太二冠

みんなが気になる藤井聡太二冠はパソコンにも詳しく、「Ryzen Threadripper 3990X」を購入したことを公言している。

昨年(2020年11月)にはGPUを購入し、ディープラーニング系ソフトも導入しているそう。
※2021/9/19追記 dlshogiだそうです。王将リーグ『将棋研究2.0』#2より
※2022/12/14追記 AMDがRyzen Threadripper PRO 5995WX搭載PCをプレゼントしたそうです。

GPUの種類まではわからないが、おそらく当時ハイエンドの「GeForce RTX 3090」である可能性は高いだろう。

渡辺明名人

Yaoo!JAPANに掲載された松本博文さんのインタビューで、税込130万円ぐらいのマシンを購入したとある。
#このインタビュー、長編ですが超面白いのでおすすめ!

渡辺明名人、1秒間に8000万手読むコンピュータを購入しディープラーニング系のソフトも導入(1)

写真からパソコンショップSEVENの以下のマシンではないかと噂されている。

ZEFT Gaming PC Ryzen Threadripper 3990X/RTX3090/メモリ128GB/m.2 SSD 1TB 価格com限定モデル

現在1,369,800円がセール中で1,149,800円(笑)
Ryzen Threadripper 3990X、GeForce RTX3090、メモリ128GBと文句なしのスペック。
Ryzen Threadripper 5990Xが出たら買うのだろうか。ちょっと気になるところ。

木村一基九段

王位戦獲得後のインタビュー(プロ棋士カラー名鑑)では、ソフトは佐藤名人がPonanzaに負けた頃から使い始め、自分より強ければなんでもよいと答えていたが、王座戦挑戦が決まったあとの東京新聞のインタビューでは

「そこは何でもいいと思ってますが、正月にパソコンは買い替えました。藤井さんが使っていたCPU(中央演算処理装置、AMD社のライゼン・スレッドリッパー)を搭載した高級機種。

と答えており、Ryzen Threadripper 3990Xを購入した模様。

阿部健治郎七段/佐々木勇気七段

電竜戦長時間マッチの解説として登場した阿部健治郎七段と佐々木勇気七段だが、やはりRyzen Threadripper 3990Xを購入したとのこと。プロ棋士界では、藤井聡太二冠が購入したこともあってかスリッパが流行しているようだ。

都成竜馬七段

AMD50周年モデルのようだが、詳細はわからず。写真をよく見るとコア数が16/32となっているので、CPUはRyzen 9 5950Xの可能性が高そう。

千田翔太七段

「AI時代の申し子」千田翔太七段が語るディープラーニング系ソフト「明確に強くなるのはこれから」

「まだわからないんですよ。どれくらい強くなるのか、急に強くなるのかわかっていないので。次第にディープラーニング系のソフトを活用していくことになるんでしょうが、まだ見通しは立っていないですね」

将棋ソフトに造詣が深い千田翔太七段だが、ディープラーニング系ソフトは導入していないとのこと。

パソコンをどこで買えばいいのか? 自作は必要?

ハイスペックパソコンの場合

それでは、将棋用パソコンはどこで買えばよいのか?
ひとつは自作PCという道で、ケース、電源、CPU、GPU、メモリ、ストレージなどを用意し、自分で組み立てる方法だ。
難易度は慣れていればプラモデル程度だが、近い知り合いにアドバイスしてくれる知り合いがいない限り、初心者にはあまりおすすめできない。

おすすめはBTOパソコンを販売しているパソコンショップで購入する方法だ。
スペックも細かく選ぶことができるし、完成品が届くので初心者にも安心。

有名な所で言えば、ドスパラマウスコンピューターFRONTIER
パソコンショップSEVENパソコン工房あたりだろうか。

自分は、ドスパラ、マウスコンピューター、FRONTIERで購入履歴があり、現在は2020年11月にFRONTIERで購入した

CPU:Ryzen 5 5600X
メモリ:16GB
ストレージ:[M.2 NVMe SSD] 1TB + [HDD] 2TB
GPU:NVIDIA GeForce RTX 3070

というスペックのパソコンを利用している。
当時の価格は、消費税と送料込みで179,080円。現在はGPUの高騰もあって、少し値上がりしてしまっている。

フロンティアのセール
はお得なことがあるので個人的にはおすすめ。

できるだけ安く購入したい場合

最初に紹介した通り、一般の将棋ファンならハイスペックパソコンは不要。それでも将棋ソフトはプロ棋士よりも遥かに強い。ただ、AVX2に対応していないような古すぎパソコン(2012~13年以前)の場合は動作しないこともある。
格安で将棋ソフトが動くパソコンを購入したいなら、「Intel N100」を搭載したパソコンが格安な上に動作も比較的速いのでおすすめだ。ただし、ディープラーニング系の将棋ソフトは動かないので注意しよう。

デスクトップパソコンなら「Beelink EQ12」

Beelink EQ12はN100搭載の超コンパクトデスクトップパソコン。価格は3万1,800円だが、セール時には2万7,000円代で購入できる。NNUE系の将棋ソフトはもちろん、Officeやブラウジングはサクサク動作する。基本的に動画編集ソフトと3Dゲーム以外は利用に問題ない。

ノートパソコンなら「GemiBook XPro CHUWI」

GemiBook XPro CHUWIはN100搭載の14インチノートパソコン。定価は3万9,900円だが、6,000円クーポンもあるので実質3万円前半で手に入る。現在発売されているノートパソコンの中ではコストパフォーマンス抜群。どこでも将棋をソフトを実行できる。注意点としては、キーボードが英語配列なこと。日本語入力はできるが、日本語キーボードとはキーの配置が異なり、日本語切り替えの方法も違うので慣れないと使いづらいかもしれない。逆に言えば、慣れてしまえばまったく問題ないだろう。

というわけで、将棋ソフト用パソコンの選び方でした。
紹介したレベルのパソコンは将棋ソフトだけでなく、3Dの重いゲームや動画編集なども快適に動くので、そちらでも活用できるかも。

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