2019年11月8日に行われたヒューリック杯棋聖戦で、糸谷哲郎八段が一手損角換わりから四間飛車にするという作戦を採用した。
正確には右玉にはなっていないが、右玉党にとっても重要な局面が出てくるので紹介したい。
糸谷哲郎八段といえば、右玉の採用が多い棋士として右玉党にはお馴染み。対振り飛車の「糸谷流右玉」はアマチュアに人気が高い。竜王位の経験があり、かつては、関西若手四天王の一人として数えられた(今も言われているかもだが)。
対するのは稲葉陽八段。タイトル獲得こそないが、名人挑戦の実績がある実力者。稲葉陽八段も右玉を得意にしている棋士の一人で、一手損角換わり7二金型右玉を採用し、勝利したことも。そして、こちらも関西若手四天王の一人である(残る2人は豊島将之名人村田顕弘六段)。
対局を見る前のイントロダクション
この対局を楽しむために知っておきたいことは、根底に羽生九段の一手損角換わり7二金型右玉があるということ。
詳しくは、「羽生善治九段も愛用! 7二金型右玉インデックス」を見てほしいが、羽生九段が短期間のうちに5回採用して5回勝利をあげた後手番の戦法である。
その対策として考えられたのが以下の形。
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩v歩v歩v銀v歩v歩v銀v歩v歩|三 | ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 歩 ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 銀 ・ 玉 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 後手番 手数=17 ▲4六銀(37) まで
8八銀・6八玉型で早繰り銀にする戦法で、これが一手損を咎める優秀な作戦。右玉側も対応に苦慮するところだ。
実際、糸谷八段も2019年9月24日の大阪王将杯王将戦挑戦者決定リーグ戦対広瀬竜王戦(居玉のまま反撃するも負け)と、2019年9月28日のA級順位戦対木村一基王位戦(中住まいにするが後手番の糸谷八段の負け)で、後手を持ってこの形を経験している。
では右玉側はどうすればよいのか? 対策として右玉NOWで紹介したのは、四間飛車で対抗する方法。11月5日に公開した以下のエントリだ。

この中で、四間飛車にして▲3五歩に反発する局面を紹介してる。
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・v飛v金 ・ ・|二 |v歩v歩v歩v銀v歩 ・v銀v歩v歩|三 | ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 ・ ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 銀 玉 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 手数=4 △4五歩(44) まで
そして、本局でこの局面が出現したのだ。というわけで、作戦的には四間飛車になるが、右玉党にも重要な局面といえるだろう。
というわけで本局の棋譜は、スマホアプリ「日本将棋連盟モバイル」からどうぞ。
一手損角換わりから四間飛車へ
本譜は前述したとおり、後手の糸谷八段一手損角換わりを採用し、稲葉八段が早繰り銀に。
糸谷八段は△4四歩を先に入れてから四間飛車へ。対する、稲葉八段も▲3五歩という突っ張った手を指す。この展開は、まさに「右玉党が知っておきたい一手損角換わり対早繰り銀からの四間飛車・初級編」で紹介している展開だ。
右玉NOWではお互いが突っ張る以下のような局面を紹介したが、
後手の持駒:角 銀 歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・v飛v金 ・ ・|二 |v歩v歩v歩v銀v歩 ・v桂v歩v歩|三 | ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・v歩 ・ ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 銀 玉 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 銀 歩 手数=8 △3三桂(21) まで
本譜はこのようにならず、激しい展開にはならなかった。ソフトの評価は先手有利にはなるが、実際にはそれほど有利ではないのかも知れない。
ちなみに早繰り銀に対して四間飛車にする作戦は糸谷八段が得意にしている形のひとつ。恐らくこの局面も以前から研究していたはずだ。
この後はお互いに陣形整備に入るが、後手が40手目に△5五角打と角を放つ。この手が恐らく研究していたかもしれない好手で、後手が指しやすくなった。
以後、中盤以降も興味深いやり取りが続いたが、詳しくは棋譜をみてほしい。
万が一局面図の利用許可が得られたら紹介したい。
というわけで、完全な右玉にならなかったが一手損角換わり右玉を指す右玉党には参考になる一局を紹介した。
右玉NOWは今後も糸谷八段を応援します!