右玉の起源は1960年代前半?
将棋ファンの多くが愛する右玉。
でも、右玉の起源でいつなんだろう? と以前から漠然とは考えていていたが、たまたま以下の記事を見つけた。
加藤治郞「将棋戦法二十番 基本戦法と参考棋譜解説」1983には右玉戦法が載っている。
それによれば「いまから約20年前に突如として玉を右側に囲う玉飛接近の新型定跡が登場した」(p.168)とある。
そして、それは清野八段が創案したとなっている。
1983年に発売された「将棋戦法二十番 基本戦法と参考棋譜解説」という本によると、約20年前に清野八段(清野静男)によって右玉が創案されたとのこと。
Wikipedia(清野静男)を見ると、
清野が得意とした玉飛接近の元祖右玉、
と書かれている。右玉は清野八段が考案し、名前を付けたのだろうか?
しかし気になるのは、それ以前に明らかに右玉と思われる棋譜があるということ。
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v玉v金 ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v桂v銀 ・v銀v角v歩v歩|三 | ・v歩v歩v歩v歩v歩v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|六 | 歩 歩 銀 金 ・ 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 銀 ・ 飛 ・|八 | 香 桂 角 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:なし 手数=32 ▲6二玉 まで
上図は1919年(大正8年)に指された将棋の局面である。完全なる右玉。当時は名前がなかったのだろうか?
この対局の詳細は以下のエントリを見てほしい。

1956年発売「平手将棋総まくり」で右玉が?
続いては、国会図書館の所蔵本を検索できる「NDL ONLINE」を使い、「右玉」で検索してみた。中国の「右玉県」などもヒットしてしまうが、将棋本の右玉も多数見つかる。
その中で気になったのは、1956年発売の萩原淳著「平手将棋総まくり」という本だ。この中に「第三章 右玉、矢倉型の攻め手筋」という項目が出てくる。
萩原淳氏は1904年生まれ、1987年没の九段。
Amazonで調べてみると、中古本あり! 60年以上前に発売された本なのにすごいぞAmazon。
というわけで、さっそく購入してみることに。
歴史を感じる色あせた表紙! 意外とコンパクトでスマホサイズである。iPhone11より横幅があって縦が短い感じ。
奥付。昭和39年発行。あれ? 1964年? 重版なんだろうか? 定価は190円!
目次から。「右玉、矢倉型の攻め筋」とある。これは期待したい。
そして、176ページ!
……違った! 右玉ではなかった。単に矢倉相手の攻め筋だったよ。残念。
でも図面は見やすい。現代の本でも十分に通用する感じ。駒の形をしたフォントはなかったのか、先手は▲、後手は△で記載されている。
気になるのは、マス目が手書き(?)ということ。ページよって微妙に違う。これは大変だ。駒は写植のようだが、それでも面倒な作業だろう。
1936年の「将棋一手千盤 : 定跡講義」はどうか?
NDL ONLINEを見ると、「右玉」のキーワードでもっと古い本はある。
一番古いのは、関根金次郎著「将棋勝敗此の一手」だ。発行は大正6年(1917年)。
関根金次郎といえば、十三世名人。実力制ではない、家元制の最後の名人である。
で、「将棋勝敗此の一手」の目次を見てみると、
同 右玉に金桂の遲速 / 107 (0039.jp2)
とのことなので、右玉戦法の右玉ではなさそう。
次に古いのは高村徳次郎書「将棋一手千盤 : 定跡講義」。昭和11年(1936年)発行である。高村徳次郎七段は戦前の棋士。校閲者に関根金次郎の名前もある。
目次を引用すると
角行落・(二)・(本組み定跡右玉戰法) / 149 (0081.jp2)
右玉戦法! しかし、角落ちである。それでも活字で「右玉戦法」と名前が出るのは一番最古なのではないだろうか?
そうとなれば「将棋一手千盤 : 定跡講義」を手に入れたいところだが、戦前の本である。手に入るのだろうか? 価格は?
調べてみると気になることが。
将棋一手千盤(高村徳次郎講評 ; 関根金次郎校閲) / ダストボックス / 古本、中古本、古書籍の通販は日本の古本屋
には表紙が載っているが、
昭和2年発行とある。1927年なので、国会図書館のデータと違う。
Amazonにもあって、こちらは1915年発行で23版とのこと。かなりのばらつきがあるのだ。「定跡講義」という副題がないことも気になる。価格的には1500円程度なので買えないことはないが……。
というわけで、次回は完結編にしたい。
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