2019年12月19日に行われた朝日杯将棋オープン戦で、羽生善治九段を一手損角換わりを採用してくれたので紹介したい。
「右玉ではないのになぜ紹介?」と思うかもしれないが、羽生九段が連採して話題になった一手損角換わり7二金型右玉に繋がる一局だからである。
というわけで、まずは7二金型右玉について振り返っておきたい。
7二金型右玉とは以下のような形。
後手の持駒:角 歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・v金v玉 ・ ・v金 ・ ・|二 | ・v歩v桂v銀v歩v歩v銀v歩v歩|三 |v歩 ・v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六 | ・ 歩 銀 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ ・ 金 玉 金 ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 歩 手数=30 △6二玉(51) まで
玉の左側が薄く、いかにも怖い形だが、羽生九段は後手をもって5戦全勝。
羽生九段の後手のエース戦法になるかと思いきや、対策が登場した。
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩v歩v歩v銀v歩v歩v銀v歩v歩|三 | ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 歩 ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 銀 ・ 玉 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 後手番 手数=17 ▲4六銀(37) まで
8八銀、6八玉型の早繰り銀である。
この形が決定版に近く、羽生九段もしばらく一手損角換わりから遠ざかっていた。

ただ、後手番も完全に対策がないわけではなく、四間飛車で対抗する方法もあって糸谷哲郎八段が採用している。

そんな流れがある中、12月19日の朝日将棋オープンで羽生九段が久々に一手損角換わりを採用したのである。果たして羽生九段の作戦は? それが本局の見どころである。
というわけで、棋譜は以下からどうぞ
2019年12月19日 第13回朝日杯将棋オープン戦二次予選 羽生善治九段 対 三枚堂達也七段
※要Flash
羽生九段の作戦は6五の位を取ること
本譜は8四歩が入った状態で、一手損角換わりを実行。当然ながら、先手は早繰り銀で対抗する。
そのまま右玉に組んでしまうと後手が不利になってしまうため、羽生九段の作戦が注目された。
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩v銀v歩v歩v銀v歩v歩|三 | ・v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 歩 ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 銀 金 玉 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 手数=20 △6五歩(64) まで
20手目△6五歩!
これが羽生九段の対策だった。
新手かな? と思いきや過去に16局も指されているとのこと。その多くは2003年から2007年ということなので、後手番一手損角換わりの一次ブームのときの手ということらしい。ただ、先手12勝、後手4勝とのことなので後手に分があるわけではない。
恐らく羽生九段の最新研究があるのだろう。
腰掛け銀から△6四角を設置
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩 ・v歩 ・v銀v歩v歩|三 | ・v歩 ・ ・v銀v歩v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・v歩 ・ ・ 歩 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 ・ ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 玉 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 後手番 手数=25 ▲3五歩(36) まで
後手の腰掛け銀に対し、先手は▲3五歩から仕掛ける。△同歩、▲同銀のタイミングで△6四角打! これが用意の作戦だ(下図)。
後手の持駒:歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩 ・v歩 ・v銀v歩v歩|三 | ・v歩 ・v角v銀v歩 ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・v歩 ・ ・ 銀 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 玉 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 歩 手数=28 △6四角打 まで
先手は▲4六角打などで打ち返す手や▲3七歩もありそうだが、▲1八飛。これなら後手満足だろう。
ソフトの評価値は▲4六角打が高いので、後手番としてはこの手を研究する必要はありそうだ。
以下、△5五銀が自然だが、▲同角! として△同角に▲4六銀打という進行になるようだ(以下、変化図)。
後手の持駒:角 歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩 ・v歩 ・v銀v歩v歩|三 | ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・v歩v角 ・ 銀 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ 銀 ・ ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 玉 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:歩 後手番 手数=33 ▲4六銀打 まで
幻の好手▲1五角打
本局のキーポイントは54手目の局面。
後手の持駒:銀 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・ ・v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・v歩|三 | ・v歩 ・ ・ ・v銀 ・v歩 ・|四 | ・ ・ ・v歩 歩v歩v角 ・ ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 ・ 歩 桂 ・ 歩|七 | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 銀 歩二 手数=54 △3六歩打 まで
ここで、▲1五角打! という奇手があったようだ(下変化図)。狭い場所に打つのでかなり見えにくい。
後手の持駒:銀 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・ ・v玉 ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二 |v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・v歩|三 | ・v歩 ・ ・ ・v銀 ・v歩 ・|四 | ・ ・ ・v歩 歩v歩v角 ・ 角|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 ・ 歩 桂 ・ 歩|七 | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:銀 歩二 後手番 手数=55 ▲1五角打 まで
△3七歩成は▲2四角と出た手が王手で先手優勢。
△3三金は▲2五桂! とする手がある。
この手を逃したのが原因かどうかはわからないが、ここから後手が有利に。
以降、後手玉は5五まで逃げ、最後は15手詰めを見逃さず即詰みとなった。
というわけで、羽生九段が一手損角換わりで勝利した一局でした。
右玉NOWは、今後も羽生善治九段を応援します!