2020年10月19日に行われた棋王戦挑決トーナメントにて、後手番の丸山忠久九段が一手損角換わり7二金型右玉(いわゆる羽生流右玉)を採用してくれたので紹介したい。
丸山忠久九段は羽生世代の強豪にして元名人。一手損角換わりを得意としており、右玉の採用も多い。つい先月にも7二金型右玉で勝利している。
対する先手は糸谷哲郎八段。関西若手四天王の一角であり、元竜王。こちらも一手損角換わりを得意とする棋士で、右玉党には糸谷流右玉の開祖としてもお馴染みだ。強靭な受けにも定評がある。
棋譜はスマホアプリ「日本将棋連盟モバイル」で観戦できるのでそちらでどうぞ。
スペシャリスト同士の羽生流右玉
本譜は一手損角換わり7二金型右玉。羽生九段が連採していた形で羽生流右玉とも呼ばれるが、ここ1年ほどは羽生九段本人は公式戦で採用していない。
が、プロ棋戦全体から消えてしまったわけではなく、丸山九段をはじめ、佐々木大地五段らが使うことがある。本局の対局者である糸谷八段も今年6月のA級順位戦で採用している。
というわけで、本譜は羽生流右玉のスペシャリスト同士の対局と言ってもよいだろう。
糸谷八段はこの形の定跡である8八銀・6八玉型の早繰り銀は見送り、右玉に組ませる5八金型で対抗した。
後手、強気の△4四銀
35手目、後手は△4四銀と先手が繰り出してきた銀にぶつける。おそらく研究手で、ソフト的にも評価は高い(わずかに後手よりの互角)。
そして、先手が飛車先の歩を切ってきたタイミングで△9五歩と端からの反撃。面白い作戦で、十分に成立しているだろう。
ここからの後手の手つくりは羽生流右玉を指すなら参考にしたいところだ。
後手ギリギリの攻めと先手薄氷の受け
ハイライトは69手目の局面。後手はかなりギリギリの攻め。ゆっくりしていると▲3三歩が間に合ってしまう。
本譜は△5九馬としたが、やや緩手か。△5八銀打ならまだ後手よりだったかもしれない。
以降、一手でも先手が受け間違えれば終わるという場面が続くが、糸谷八段の受けは正確。89手目、▲4四角打が詰めろ逃れの詰めろでこれが決め手か。受けきった糸谷八段の勝利となった。
というわけで右玉側の負けとなってしまったが、後手よりの中盤が続き羽生流右玉の優秀さは証明されたといってよいだろう。
右玉NOWは今後も丸山九段を応援します!